白雪姫は80歳になった。
長年連れ添った夫の王子様は昨年亡くなり、寂しい生活を送っていた。
老いた白雪姫はひざの上に飼い猫のジョンを乗せ、木の椅子に座って、お城のベランダから外を眺めていた。
そこへ、小人の妖精が現れた。
妖精は、寂しそうにしている白雪姫に、かつて、小人の仲間たち7人がお世話になった礼を言い、「あのときの恩がえしとして、願い事を3つかなえてあげますので、何なりとお申し付けください」といった。
最初、白雪姫は、半信半疑だった。
そこで、一つ目のお願いとして、「この木製の椅子を金の椅子に変えてみてください」と頼んでみた。
小人の妖精は、「お安いご用です!」といって、魔法の杖をひと振りした。
すると、空に稲妻がとどろき、白い煙に包まれた木製の椅子は、純金の光り輝く椅子になった。
白雪姫は目を丸くし、驚いた飼い猫のジョンは白雪姫のひざの上から転がり落ちた。
「どうです?さあ、2つ目の願い事を言ってみてください」と小人の妖精は言った。
今やしわと白髪だらけになって老いていた白雪姫は、すがるように言った。
「私を、美しかったあの20歳の頃のような若さに戻してください」
小人の妖精は、「お安いご用です」といって、「えい!」という掛け声とともに、また魔法の杖をひと振りした。
白雪姫は虹のような光に包まれ、気が付くと、若くて美しい20歳の頃の容姿になっていた。
「残るはあとひとつです。どんな願いごとになさいますか?」と小人の妖精は微笑んだ。
「では、そこにいる飼い猫のジョンを、若い美男子の王子にしてください」と白雪姫は言った。
「いいですよ。そーれ!」と小人の妖精は三たび魔法の杖を振った。
飼い猫のジョンは宙に浮き、パーンと大きな音がしたかと思うと白い煙におおわれた。
そして、白雪姫が気が付くと、そこには長身でマッチョな美男の若い王子が立っていた。
「これでご満足いただけましたかな?」と言いながら、小人の妖精は笑みを浮かべ、やがて姿を消してしまった。
若い王子になった飼い猫のジョンは、白雪姫に歩み寄り、キスをした。
そして、ほほを赤くした白雪姫に向かって、ジョンは悲しそうにこう言った。
「ああ、愛しの白雪姫様。あなたはきっと、3年前に私が去勢手術を受けたのを忘れていたのですね」