アメリカ合衆国に、ノアが住んでいた。
ある日、彼に、神様のお告げがあった。
「ノアよ。わしは、もう一度、大洪水を起こして、この堕落しきった世界を終わらせることにした。洪水は6か月後に起こす。お前はそれまでに箱舟を作り、あらゆる生物のオスとメスをひと組ずつその箱舟に収容して救え」
ノアは、神のお告げを聞き、急いで箱舟を作ることを誓った。
そして約束の6か月が経った。
ノアの様子を見に来た神は、驚いた。
何の準備もできていなかったのだ。
ノアは、涙を流しながら、神様に説明した。
「私は神様のお告げに従い、箱舟を作ろうとしました。すると、州から建築許可が必要だといわれました。設計図面を作って持っていくと、この大きさで木造船だと消火用のスプリンクラーが付いていないと許可を出せないと言われました。船が大きすぎるので地域の景観条例に違反することもわかりました。船がお隣の敷地にはみ出すので、隣の主人の弁護士から訴えるぞと脅されました。電線にひっかかるので、電力会社と話し合い電線の移設工事に必要な費用を負担する必要が出てきました。建造に必要な大量の木材を近くの森林から調達しようとすると、そこには絶滅の恐れがある貴重なフクロウがいるから木の伐採は許さないと自然保護団体が抗議してきました」
ノアは一息つき、続けた。
「箱舟に乗せる動物たちを集めようとすると、今度は動物愛護団体が抗議してきました。彼らは、多数の動物たちを箱舟の中に長期間押し込めるのは動物愛護の精神に反すると主張しています。野生動物を集めるためには、それぞれ事前の厳しい審査と許可を受ける必要があることも判明しました。箱舟を作るために、お金がないのでなるべく安い労働力を集めようとすると、人権団体と州の労働団体から法に従った労働条件の維持と最低賃金の支払いの確約を求められました。移民管理局からは労働者に不法移民が混じっていないかチェックして証明書を提出するように要求されました」
神は、ノアの話を聞きながら、ため息をついた。
「そうだったのか。わしも、連邦政府から、提案された洪水実施に関しては事前に環境影響調査とアセスメントを行うのが望ましい、と指摘を受けたところじゃ」