秋が深まったある日、フランスの片田舎の小さな教会に、杖を突きながらひとりのおじいさんが懺悔(ざんげ)をしたいとたずねてきた。
老人:「神父様、それは今から70年以上も前の第2次世界大戦中の1944年のことです。一人の若くて美しい女性が、うちに飛び込んできました。彼女は、パルチザン狩りをしていたナチスドイツの兵隊に追われていて、かくまって欲しいと涙ながらに訴えました。私はそれがわかったら自分もどうなるかわからないと思いましたが、彼女を屋根裏部屋に案内して望み通りかくまうことにしました」
神父:「あなたは戦争中に、ナチスに追われている女性をかくまったというのですね。それは懺悔を必要とするようなことではありませんよ」
老人:「それが。。。実は、その女性はあまりに美しかったので、私は、うちの屋根裏部屋でかくまい食料も与える条件として、彼女に体を求めてしまったのです」
神父:「そのようなことがあったのですが。ご老人、私はその当時は生まれていませんでした。しかし、非常に困難な時代であったことはよく知っています。戦争中は、多くの人が命を失い、物資や食料も不足し、密告を受けたり不条理な理由でつらい目にあった人達もたくさんいました。あなたがしたことは、確かに懺悔を必要とすることかもしれません。しかし、その女性はナチスにつかまっていたらそれこそ本当にひどい目にあっていたでしょう。あなたは、そのことがが知られれば自分も危険な目にあうことを覚悟で、その女性をかくまい命を助けた。戦争中という特殊な状況を考えたとき、神はきっとあなたを許すでしょう」。
老人:「神父様、ありがとうございます。その言葉に、私は救われた思いです。ところで、ひとつご相談があります」
神父:「なんでしょう?」
老人:「その女性に、もう戦争は終わっている、と伝えるべきでしょうか?」